株式会社スノーピークは、新潟県三条市に本社がある総合アウトドアメーカーである。そのアウトドアメーカー大手が「自宅で野遊び」というコンセプトで、既存製品を新しい市場に投入している。これはアンゾフの製品市場マトリクスにおける市場開拓戦略の好例であるため、その事例をご紹介したいと思う。

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スノーピークの概要

株式会社スノーピークは、社名と同じ「snow peak(スノーピーク)」というブランドを有しており、メーカーの社員自らがユーザーであるという顧客視点を価値観の中心に据えた企業だ。下記に経営理念の一部を引用する。

私達は自らもユーザーであるという立場で考え、お互いが感動できるモノやサービスを提供します。(スノーピーク企業サイト 企業理念ページより 

主要な商品は、テント、寝袋、防水シート、アウトドア家具など。東証一部上場企業であり、アウトドア好きで知らない人はいないメーカーである。

上記直販オンラインショップを見て、商品ラインを把握いただきたい。スノーピークは商品カテゴリーを「野遊び」としてまとめており、事業を行っている市場のカテゴリと理解して良いだろう。

スノーピークにおけるアンゾフの製品市場マトリクス

アンゾフの製品市場マトリクスとは、「製品ライン」と「市場(製品使命)」の二つの視点を軸に、企業の多角化を分析し「製品市場戦略」と呼ばれる多角化成長戦略を導くためのフレームワークである。製品市場マトリクスについての基礎的な知識に関しては、下記ページを参照いただきたい。

このフレームワークを使って「製品ライン」と「市場(製品使命)」の軸で理解を深めたいと思う。まずは、市場開拓戦略をとる前の市場浸透戦略について考察する。

製品市場マトリクスにおける市場浸透戦略

スノーピークの既存の製品ライン

スノーピークの既存の製品ラインは、前述したとおりテント、寝袋、防水シート、アウトドア家具などとなる。「野遊び」のための製品ラインは幅広く、物理特性や性能特性は多岐にわたる。

これらは大分類として「テント」、中分類として「テントのエントリーモデル」などに分けられる。それぞれの製品ラインは、顧客の抱えている単一または複数の使命を果たすために開発されている。例えばテントであれば「野外で雨を凌ぐ」「野外で快適に就寝する」などの使命を果たすために存在している。

スノーピークの既存の市場(製品使命)

スノーピークの既存の市場(製品使命)は、包括的に「野遊び」として定義されている。これは非常に明確な市場(製品使命)の定義であり、「野外で快適に遊ぶ」「自然を満喫する」「自然が身近にあるライフスタイルを実現する」などが顧客の抱いている使命となるだろう。つまり、その顧客が持つ使命を指して「野遊び」と表現しているのである。

注意しなければならないのは、スノーピークが注力している市場は「キャンプ用品市場」「野外泊用品市場」「アウトドア用品市場」ではないということだ。アンゾフの製品市場マトリクスにおいて定義しなければならないのは、顧客が抱いている使命を「製品使命」を「市場」として定義することである。

スノーピークの市場浸透戦略

スノーピークが取り得る市場浸透戦略としては、「野遊び市場」において単一または複数の使命を果たすことのできる「製品」を開発し、その市場の占有率を高めることにある。そのために、アウトドアライフが大好きな人材のみを採用し、全員がユーザーとして顧客の視点に立ち、いちユーザーの目線でプロモーションを行っている。

スノーピークが定義する新たな市場

次に、スノーピークの新たな動きである市場開拓戦略を読み解いてみよう。スノーピークは新しい市場として「自宅での野遊び」という定義を行った。ここでは仮に「自宅野遊び市場」と呼ぶことにする。大まかに表現すれば、「自宅でも野遊びをする」ことを実現する使命を持つ市場である。詳細は下記の記事をご覧いただきたい。

まず、こちらはセキスイハイムとのコラボレーションで、自宅を「野遊び基地」としてライフスタイルを提案し、既存製品の訴求を行っている。ページをご覧いただければ、モデルハウスの至る所に「野遊び」用の製品が設置されていることに気付くだろう。

もう一つの例は、リノベ不動産とスノーピークのコラボレーションで、自宅で野遊びをする「アーバンアウトドア」というライフスタイルの提案を行っている。こちらは一軒家ではなく、リノベーション物件での「野遊び」の提案である。

いずれも日常空間である自宅に「野遊び」を持ち込む「自宅野遊び」の市場コンセプトとなる。製品使命の舞台を「非日常」から「日常」に移したとも解釈できる。

スノーピークの市場開拓戦略

アンゾフの製品市場戦略における市場開拓戦略は、既存の製品ラインをそのまま利用、または物理特性や性能特性などの製品特性にわずかな変更を加えた上で、別の市場の顧客が持つ使命に対応しようとする事業戦略である。

スノーピークの市場開拓戦略では、既存のアウトドア製品をそのまま利用しながらも、顧客が日常生活で抱える使命を「自宅野遊び市場」として定義している。例えば「居住スペースが限られているため、小さく収納できて丈夫な家具を使う」「耐久性とデザイン性に優れた食器を使う」「ベランダや屋上で野遊びとして非日常を気軽に味わう」などの使命である。

製品市場マトリクスにおける市場開拓戦略

「自宅野遊び」では、日常の中で非日常的な感覚を楽しむことはもちろん、「野遊び」用に作られた製品の特性を活用することで、日常に利便性をもたらしている。軽量で丈夫な素材、小さく折りたためて収納できる家具、ベランダや屋上で快適に過ごせる野遊び用具など、通常の家庭用製品にはない特徴を新しいライフスタイルとして訴求している。

既存製品ラインは、もともと「野遊び」用に開発されているため、通常のインテリア家具などと差別化することが容易である。特に、ベランダや屋上での利用訴求は「ベランダ・グランピング」の需要も取り込むことが出来るだろう。

市場開拓戦略を選ぶメリット

スノーピークが市場開発戦略を選ぶメリットとしては、既存の経営資源を有効活用できるところにある。ある特定の製品使命(市場)をもとに開発された製品だとしても、別の顧客の使命を満たすことは可能だ。その別の使命を市場として定義することで、新たな市場を発見することが出来る。

既存の経営資源を有効活用

既存市場への製品開発が別市場の製品開発を兼ねることになるので、製品開発リスクも比較的低い。よって新規市場に特定した開発は必要無いため、市場に対する経営資源だけを上手く分配すればよい。

基本的には、企画・営業・広報などの機能に分配する経営資源の量を調整することで、選択することが可能な戦略だ。スノーピークでも市場開発戦略では、ハウスメーカーや不動産業者などの他社と協業することで、新市場のノウハウを手に入れ、且つ効率の良い販売チャネルも確保している。このような外部の経営資源を利用することも上策である。

市場開拓戦略での注意点

一方で、経営理念などの軸がしっかりしていない場合は、市場の選定や絞り込みに多くの経営資源を消費してしまう。それは、そもそも自分たちの事業が何のために存在しているか明確ではないため、市場の選択肢が広がりすぎてしまうからだ。また、既存の製品ラインの顧客が持つブランドイメージが、新市場への進出によって揺らいでしまうこともある。

その点に関してスノーピークの市場開発戦略は、「自宅野遊び市場」は既存市場と異なるものの、重複している顧客層も多いため同一のブランドイメージで戦略遂行が可能である。

まとめ

スノーピークによる「自宅野遊び市場」の開拓は、アンゾフの製品市場戦略の市場開拓戦略としては分かりやすい事例だろう。既存製品ラインによって別の市場(製品使命)を満たす戦略は、特にメーカーや製造業では選択しやすい戦略である。

この事例のように市場開拓戦略を遂行するためには、事前に自社の経営資源の特性を充分に把握する必要がある。その上で、既存市場を犠牲にすることなく、攻め入ることの出来る新たな市場が見つけることが重要である。



About 古市 大三

ダイゾーコンサルティング株式会社 代表取締役。日本経営士会認定 経営士、WACA認定 ウェブ解析士マスター、および経済産業省認定 応用情報技術者。7年の在米生活を経て、帰国後に起業。WEBデザイナー兼ディレクターを経て、WEBコンサルタントに転向。現在は戦略経営コンサルタントとして活動。その他、セミナー講師やウェブ解析士認定講座の講師も務める。