戦略経営において、企業の潜在的能力を語る上で欠かせない言葉は「コンピテンシー(Conpetency)」や「ケイパビリティ(Capability)」だろう。いずれも内部環境を分析するにあたって、重要な経営資源が何であるかを表現する文脈では頻出する言葉だ。また、この2つの言葉は、どちらも「能力」として日本語に置き換えられてしまうことが多い。しかし実際は「コンピテンシー」と「ケイパビリティ」が表す意味は異なるのである。

読者の中には「コア・コンピタンス(または、コンピテンシー)」や「ケイパビリティ」の概念を理解されている方は多いと思う。しかし、世の中に出回っている日本語による定義としては「競合を凌ぐノウハウや技術力」「優位性の源泉となる能力」「企業固有の強み」など、どちらがどちらなのか区別できない曖昧なものが多いとは感じないだろうか? このような歯切れの悪い定義づけが広まってしまう一因としては、定義を書いている本人が、英単語本来の意味を区別できないまま、単に日本語として情報の再構成を行ったからである。

このような状態から脱し、コア・コンピタンスとケイパビリティを真に理解するには、本来の英語の意味としての「Competency」と「Capability」の違いを知る他に方法が無いだろう。本来の英語でのニュアンスを理解した上で、ビジネス用語としての「コンピテンシー(Conpetency)」や「ケイパビリティ(Capability)」について考えることが出来れば、より理解が深まるはずだ。

恥ずかしながら、筆者もこれらの輸入された横文字を、しばらくは概念を表す記号としてしか捉えることが出来ていなかった。ここでは、筆者の理解をベースに言語としての意味を整理し、有名な「コア・コンピタンス」と「ケイパビリティ」の概念に触れてみようと思う。

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英語としての Competency と Capability

まず、筆者も含め英語を母国語としない場合は、英語を母国語とする人たちが「Competency」や「Capability」という単語を日常で目にすることを留意しなければならない。つまり、これらはビジネス以外でも用いられる通常の単語の一つなのである。「コンピテンシー」や「ケイパビリティ」という横文字が、ビジネス用語として輸入されたが、英語ネイティブにとってはごく普通の単語である。

では、なぜ翻訳されずにそのままの発音が横文字として輸入されたのか? それはその単語が本来持つ意味合いを上手く日本語に置き換える事が出来ないからである。つまり、本来の意味が重要であるから日本語に置き換えないのであり、本来を意味を知らずに、記号としての概念のみを知るだけでは、理解として不十分なのである。

「Competency」と「Capability」の大きな違いは、水準を表しているのか、何かしらを遂行する能力自体を指しているのか、という部分である。

Competency(コンピテンシー)の表す概念

「Competency」とは、一定の水準を満たす源泉となっている力のことである。

単語としてのコンピテンシー

辞書をひいてみると「能力」という訳以外に「適性」「適格者」「技量」「力量」「特質」などが挙がる。これらは「ある文脈において日本語に置き換えた場合」に置き換わる可能性がある日本語であり、「Competency」が持つ概念ではない。それではこれらの訳語に共通する概念は何なのか?

それは能力がある一定の水準を満たしている状態であるということだ。そして水準があると同様に、それは相対的に測られたものなのである。逆に言えば、何かしら比較する対象が存在しない場合は「Competency」と表現することが難しい。

また「Competency」は使うことによって消耗されることがない。一定水準の知識や能力は、使うことにとって消費されたりはしない。衰えることがあっても、消耗され磨り減り消滅するようなことはない。

例えば「弓で矢を射る技術では日本で5本の指に入る」能力は「Competency」である。

ビジネス用語としてのコア・コンピタンス

1990年に、プラハラードとハメルによってハーバード・ビジネス・レビューに寄稿された「The Core Competence of the Corporation」では、企業が持つ様々な「Competency」を司る概念として、「Core Competence」と表現している。つまり「コア・コンピタンス」の本来の英語としての意味は「核となる一定の水準を満たした能力」となる。

「The Core Competence of the Corporation」の文中では、ソニーの「微細化技術」というコンピテンシーや本田技研の「エンジンや駆動系統」のコア・コンピタンスなどが登場するが、いずれも寄稿当時は世界屈指の水準を誇っており、まぎれもない「Competency」なのである。それらの力は、市場や競合が存在しているから相対的に評価することができ、「Competency」や「Competance」と呼ぶことができる。

コア・コンピタンスとは、一度使うと消えてしまうものではない。また、時間と共に劣化してしまう物的資産とは異なり、コンピタンスは利用され、共有されるたびに強化されていく。(戦略論 1957–1993 HARVARD BUSINESS PRESS)

このような表現も、コンピテンシーを理解する上では重要となるだろう。

ビジネス用語としての「Core Competence」は、「様々な市場に適用可能」「最終商品から顧客が得る利益に大きく寄与する」「競合にとって模倣が困難」などの特徴が挙げられるが、ここでは詳細な定義を割愛する。詳しくは後述する書籍「戦略論 1957–1993 HARVARD BUSINESS PRESS」を参照いただきたい。「The Core Competence of the Corporation」の日本語訳が第8章に掲載されている。

Capability(ケイパビリティ)の表す概念

「Capability」とは、特定の結果を生み出すことができる力のことである。

単語としてのケイパビリティ

辞書を参照すると「能力」という意味の他に「性能」「才能」「可能出力」などが挙げられている。「Capability」は「Capable(可能である)」と「Ability(〜できること)」が合わさった言葉だ。つまり、何かを「実現したり処理したりできること」やその力を指している。

前述の「Competency」では、相対的な基準が設けられていたが、「Capability」はそのような基準を要しない。比較する必要も無ければ、他者の判断も必要無い。特定の事柄を成し遂げることができるかできないかの事実が重要なのである。つまり遂行能力を指している。「性能」や「才能」と訳されるのも、同じ理由である。

また、「Capability」は何かを成し遂げるために何かを消耗するという側面も持ち合わせている。結果を得るために、資源が消費される可能性を含んでいる。

例えば「矢を射ると的の中心に95%の確率で当てる」能力は「Capability」である。

ビジネス用語としてのケイパビリティ

1992年に、ストークJrによってハーバード・ビジネス・レビューに寄稿された「Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy」では、米国小売大手のウォルマートを例に挙げて「Capability」を説明している。

文中ではクロス・ドッキング方式をについて、価値連鎖(バリュー・チェーン)において、業務上の「Capability」が有効に作用している事が伺える。ウォルマートが採用するクロス・ドッキング方式は様々な利点があるにもかかわらず、競合他社が採用していない。その理由は運用の難しさにある。つまり、運用するにあたって、各部門が連携して遂行する能力が組織に備わってなければ採用できないということだ。

また、戦略的な「Capability」は、他者に勝る価値を提供できるビジネスプロセスによって生み出されるとも表現されている。ウォルマートにおける「Capability」は、後述する書籍「戦略論 1957–1993 HARVARD BUSINESS PRESS」の第9章の図表2に挙げられているので参照いただきたい。

重要なのは、「Capability」を何かを遂行することできる能力として理解することだ。ウォルマートの「EDLP(エブリデー・ロープライス)戦略」が「Capability」なのではなく、その戦略を運用できるビジネスプロセスや仕組みこそが、戦略的な「Capability」なのである。

コア・コンピタンスとケイパビリティの関連性

ビジネスの文脈の中で登場する「Core Competence」と「Capability」は、意味合いが大きく異なる事は理解いただけたかと思う。それぞれに定義が存在しており、本来の単語自体の意味も異なる。しかし、この二つの概念はお互いに強く関係し合っている。

それは、コア・コンピタンスは複数の重要なケイパビリティを含んでいるということだ。もちろん、コア・コンピタンスはケイパビリティのみで構成されているわけではないが、要素の多くを占めているだろう。様々なことを高い水準で遂行できることが、すなわちコア・コンピタンスの水準の裏付けになるのである。

先ほどの例えで言い換えれば、「矢を射ると的の中心に95%の確率で当てる」能力をはじめとする複数の遂行能力が、「弓で矢を射る技術では日本で5本の指に入る」水準の能力を持っている、と言わしめる所以なのである。

コア・コンピタンスは戦略策定と関連性が強く、ケイパビリティは戦略遂行に関連性が強いとも言えるだろう。理由としては前述の通りである。

戦略論 1957–1993 HARVARD BUSINESS PRESS

文中で挙げた「コア・コンピタンス」や「ケイパビリティ」の考え方については、ダイヤモンド社から出版されている「戦略論 1957–1993 HARVARD BUSINESS PRESS」の第8章と第9章に詳しく書かれてあるので参照いただきたい。既に読んだことがある読者も、英単語の本来の意味を理解した上で読むことで新しい発見があるだろう。

訳語の取扱いについて

「Competency(又は Core Competence)」と「Capability」を筆者が訳す際は、それぞれ「高水準能力(又は中核的高水準能力)」と「遂行能力」として置き換える。

「基準」とは、物事を測る場合に拠り所(基礎)となる物や数値を指す。最も平均的で、一般的な変化しづらいものを基準に設定する場合が多い。一方「水準」は、元々が水平面を意味しているが、相対的な比較対象としての意味合いを含んでいる。また、水準は常に変化しており、刻一刻と変化するビジネス環境においては、基準より水準の方が相対的に自らを知ることに役立つだろう。よって「コンピタンス」や「コンピテンシー」は「高水準能力」と訳したいと思う。それぞれについての詳細は下記記事も参照いただきたい。

当コンテンツでは「高水準能力」や「遂行能力」という言葉を積極的に使用する。なぜなら「コア・コンピタンス」や「ケイパビリティ」という横文字を使うと、読者へ深い理解を提供する妨げになりかねないからだ。なお「高水準能力」や「遂行能力」という用語は、当コンテンツおよび筆者が独自に使っているだけなので、一般のビジネス上の文脈では通じないことを留意いただきたい。



About 古市 大三

ダイゾーコンサルティング株式会社 代表取締役。日本経営士会認定 経営士、WACA認定 ウェブ解析士マスター、および経済産業省認定 応用情報技術者。7年の在米生活を経て、帰国後に起業。WEBデザイナー兼ディレクターを経て、WEBコンサルタントに転向。現在は戦略経営コンサルタントとして活動。その他、セミナー講師やウェブ解析士認定講座の講師も務める。