戦略(英:strategy、語源はギリシャ語の στρατηγία stratēgia 「将軍の技術;総局」から由来[1]) とは不確実な状況下での、ひとつ又は複数の着点(ゴール)に到達するための、高度な計画である。「将軍の技術(戦術、包囲攻撃、兵站など複数の技量を含む)」としての意味では、東ローマで6世紀に専門用語として登場し、18世紀になるまで西洋諸国の自国語として翻訳されなかった。それから20世紀までの間、「戦略」という言葉は、敵国との外交における軍事衝突において「意思を論じる中で、政治的結末を追求するための脅迫や実力行使を含む包括的な方法」を示している[2]。

戦略が重要視される理由としては、通常そのような着点に到達するために利用できる資源が有限だからである。戦略は一般的に「着点の設定」「着点に到達するための行動の決定」「行動を実行するための資源の動員」を含んでいる。つまり、戦略からはその結末(ゴール)をどのような手段(資源)で得るのかを説明できる。一般的に、組織内では上位の指導者が戦略の決定を担っている。戦略は、組織が置かれた環境や競争下に順応しようとする中で、計画(意図)されたものとして、または活動のパターンとして見出すことができる。また、戦略は戦略立案戦略思考を伴う[3]。

マックス・マキューンが、戦略を「将来を形作ること」であり「選択可能な手段によって望ましい結末」を手に入れるための試みであると定義する[4]のに対し、マギル大学の教授、ヘンリー・ミンツバークは、戦略を計画の観点と対比して「意思決定の流れに出現するパターン」と定義づけている。また、ウラジミール・クヴェント博士は、戦略を「忠実に従うことで長期的な成功を確実なのもにする思想体系を、発見し、策定し、構築するための仕組み」と定義している[5]。

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戦略の構成要素

2011年に、リチャード・ルメルト教授は、戦略を問題解決方法の一種であると説明した。彼は「良い戦略はカーネル(核心)と呼ばれる基本構造を持っている」と記している。カーネル(核心)は「挑戦の本質を定義または説明するための判断」「挑戦に対処するための指針」「指針を運用するための首尾一貫した行動計画」の3つの要素に分にることができる[6]。

米国のケネディ大統領は、1962年10月22日のキューバ危機に関する演説に際して、これらの3つの戦略構成要素で説明を行った。

  1. 判断:「米国政府は公約の通り、ソビエト連邦がキューバ島で行っている軍事拡張を厳重に監視してきた。そして先週、その島で一連の攻撃ミサイル配備がなされたという紛れもない証拠を掴んだのである。これらが配備された狙いは、西半球に対しての核攻撃能力を備えることに他ならない。」
  2. 指針:「それゆえ、我々の確固たる目標は、この国およびその他の諸国に対する核ミサイルの使用を防ぐことであり、西半球からミサイル攻撃による脅威の排除を確実なものとすることである。」
  3. 行動計画:「この軍事拡張を阻止するために、キューバへの全ての軍事兵器の輸送を厳格に封鎖する。もしキューバへの海上輸送の積み荷に軍事兵器が発見された場合、いずれの国家や港からの輸送であったとしても引き返させる。」これを最初のステップとして7つのステップが続く[7]。

2011年に、ルメルトは、戦略が含む3つの重要な観点として「予謀」「他社の行動の予期」「目的に則した行動連携の構想」を挙げている。彼は戦略を構想における問題の解決とし、単なる計画や選択というよりも、多岐にわたる要素を整理し、調整し、協調させるためのトレードオフであると説明している[6]。

戦略

 

戦略策定戦略遂行

戦略は策定遂行という2つの主要な過程を伴うことが一般的である。戦略策定では、置かれた環境や状況を分析し、判断し、指針を策定する。戦略策定は戦略立案戦略思考などの活動を含んでいる。一方、戦略遂行は指針によって確立された着点に到達するために取られる行動計画に従って行われる[3][6]。

1981年に、ブルース・ヘンダーソンは「戦略とは、将来の事柄に対する主導権を予期する能力が強く影響する」と記した。彼は、戦略の策定に必要な基本条件として下記の3つの要因を挙げている。

  1. 環境、市場、競合に関する豊富で多岐にわたる知識
  2. その知識を相互に作用する動的な仕組みとして検証する能力
  3. 特定の選択肢において判断するための想像力と理論

ヘンダーソンは、戦略は「有限な経営資源と、競合の技量と意思に対する不確実性;経営資源の消費における不可逆性;時間と距離を超えて行動を協調させる必要性;主導権を統制することに対する不確実性;競合との相互認識に対する性質」という意味で価値があると記している[8]。

軍事理論としての戦略

政治的視点が軍事に従属するのであれば、政策は戦争を生み出すものとして、不条理なものになるであろう。…政策とは、指導的知性となり、戦争とはその政策の道具にすぎないのである。 (カール・フォン・クラウゼヴィッツ著書「戦争論」にて)

軍事理論では、戦略は「国家の安全と勝利を確かなものとするために、国を挙げて、大規模に、長期的な計画と発展において、和平と戦争のいずれにも活用される(ランダムハウス辞典より)」とされている[4]。

近代戦略研究の父、カール・フォン・クラウゼヴィッツは、軍事戦略を「戦争の終結を導くための戦闘行為の採用」として定義した。また、B.H.リデル・ハートは、戦略は「政策の終結条件を満たすために、軍事力を割り当て、適用する技術」と、戦闘の強調をより抑えた表現で定義した[9]。

従って、両者とも軍事的着点を超えた政治的な狙いとしての、卓越した視点を示したのである。U.S.ネイバル・ウォー大学の教員、アンドリュー・ウィルソンは、戦略を「政治的意図を軍事行為と結びつけるプロセス」と定義している[10]。

尚、東洋の軍事哲学は、紀元前500年の孫子による「孫子の兵法」までさかのぼる[11]。

経営理論としての戦略

競争戦略の策定のエッセンスは、企業とそれが置かれた環境との関係性である。(マイケル・ポーター[12])

近代経営戦略は、1960年代の研究と実践において注目されるようになった。それ以前は「戦略」や「競争」という言葉が、経営に関する文献に登場することはなかった[13][14]。

1962年に、アルフレッド・チャンドラーは「戦略とは企業の基本的な長期的着点を決定することであり、行動の方向性の採択であり、それらの着点に到達するために必要な経営資源の配分である」と記した[15]。

1980年に、マイケル・ポーターは、戦略を「競争がどのように行われるか、その着点が何であるべきか、そしてそれらの着点に到達するためにどのような方針が必要とされるか、に対する広義での解決策」である、そして「企業が追い求めている結末(ゴール)とそこにたどり着くための手段(方針)組み合わせ」であると説明した[12]。

1998年に、ヘンリー・ミンツバーグは戦略を5つの定義として説明している[16]。

  • 計画(Plan)としての戦略:意図的に設定された着点に到達するために管理された行動の道筋であり、戦略立案の概念に近しい。
  • 型(Pattern)としての戦略:過去の行動から見出される一貫性のある行動様式(パターン)であり、計画的または意図的な戦略よりも以前から認識されていた戦略。意図的なそれとは異なり、型としての戦略は「出現する」ものとして捉えられている。
  • 位置(Position)としての戦略:消費者やステークホルダーが持つ概念的な枠組みを基礎とする、市場の中でのブランド、商品、あるいは企業の位置づけに基づいた戦略。組織の外側、つまり外部要因によって確定される。
  • 策略(Ploy)としての戦略:競合を出し抜くための特定の作戦行動を実施する戦略。
  • 観点(Perspective)としての戦略:「ビジネスに対する持論」や組織における思考様式の延長線上または観念体系を基に実施される戦略。

ゲーム理論としての戦略

ゲーム理論の中では、戦略は決められた規程内でプレイヤーが選択可能な行動に依存する。非協力ゲームの中で、それぞれのプレイヤーは、次にどんな行動をするかを選ぶときに、一式の可能な戦略から選ぶことになる。

戦略は、ゲームの様々な条件下で次にどんな行動が起こりうるのかを、繰り返し先読み、熟慮することとなる。例えば、もしプレイヤーが(1)という行動をとったなら、相手側に特定の有利または不利な状況を与えることになる。一方で、プレイヤーが(2)という行動をとったなら、相手側にまた異なった状況を与えることになる。そしていずれの行動をとったとしても、それらの選択がプレイヤー自身の将来の状況を決定づけるものになる。

ゲーム理論の中での戦略は、確率論的(混在戦略)または決定論的(純粋戦略)なもののいずれかとなる。純粋戦略は、行動による可能性が0または1にしかならないような、混合戦略のうちの特定のケースとなるだろう。

ゲームに基づく戦略は一般的に、相手を打ち負かすための最善策を決定するため、プレイヤーが解決策の帰結を考え抜くことを要求されるのである。


脚注

  1. ^ στρατηγία, Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon, on Perseus
  2. ^ Freedman, Lawrence (2013). Strategy. Oxford University Press. ISBN 978–0–19–932515–3.
  3. ^ Mintzberg, Henry and, Quinn, James Brian (1996). The Strategy Process:Concepts, Contexts, Cases. Prentice Hall.ISBN 978–0–132–340304.
  4. ^ http://faculty.fuqua.duke.edu/~charlesw/LongStrat2010/papers/class%2010/Patterns%20of%20Strategy%20Formulation.pdf
  5. ^ Kvint, Vladimir (2009). The Global Emerging Market: Strategic Management and Economics. Routeledge.
  6. ^ Rumelt, Richard P. (2011). Good Strategy/Bad Strategy. Crown Business. ISBN 978–0–307–88623–1.
  7. ^ American Rhetoric-President John F. Kennedy-Cuban Missile Crisis Address to the Nation–22 October 1962
  8. ^ Henderson, Bruce (1 January 1981). “The Concept of Strategy”. Boston Consulting Group. Retrieved 18 April 2014.
  9. ^ Liddell Hart, B. H. Strategy London:Faber, 1967 (2nd rev ed.) p. 321
  10. ^ Wilson, Andrew (2012). Masters of War:History’s Greatest Strategic Thinkers. The Teaching Company.
  11. ^ Giles, Lionel The Art of War by Sun Tzu – Special Edition. Special Edition Books. 2007.
  12. ^ Porter, Michael E. (1980). Competitive Strategy. Free Press. ISBN 0–684–84148–7.
  13. ^ Kiechel, Walter (2010). The Lords of Strategy. Harvard Business Press. ISBN 978–1–59139–782–3.
  14. ^ Ghemawat, Pankaj (Spring 2002). “Competition and Business Strategy in Historical Perspective”. Business History Review (Harvard Business Review).
  15. ^ Chandler, Alfred Strategy and Structure: Chapters in the history of industrial enterprise, Doubleday, New York, 1962.
  16. ^ Mintzberg, H. Ahlstrand, B. and Lampel, J. Strategy Safari : A Guided Tour Through the Wilds of Strategic Management, The Free Press, New York, 1998.

出典

上記コンテンツは古市大三による Wikipedia:en:Strategy (18 May 2015, at 04:01 UTC) の翻訳記事です。GFDLおよびCC-BY-SA 3.0ライセンスの条項を満たす場合のみ利用可能です。



About 古市 大三

ダイゾーコンサルティング株式会社 代表取締役。日本経営士会認定 経営士、WACA認定 ウェブ解析士マスター、および経済産業省認定 応用情報技術者。7年の在米生活を経て、帰国後に起業。WEBデザイナー兼ディレクターを経て、WEBコンサルタントに転向。現在は戦略経営コンサルタントとして活動。その他、セミナー講師やウェブ解析士認定講座の講師も務める。