戦略経営(Strategic Management)とは、経営資源と組織を取り巻く内的・外的環境の評価に基づいて、主要な目的に対する戦略策定戦略遂行を伴い、オーナーのために企業の経営者が行う取り組みである[1]。

戦略経営は、企業において全体的な方向付けと共に、指針の策定や目標達成のための立案、計画を遂行するための経営資源の分配など、詳細な目標設定を伴う。複雑な環境で市場競争の力が働いている文脈において、経営学者や経営者達によって、戦略形成を補助する膨大な数のモデルやフレームワークが発展した[2]。戦略経営とは元来不変の性質を持っていない。言い換えれば、それらのモデルは、しばしば遂行状況を監視するフィードバック循環を含んでおり、次の立案に活かされる[3][4][5]。

マイケル・ポーターは、戦略には以下の3つの原則が根底にあると述べている[6]。

  • 「特有で価値のある市場ポジション」を作る
  • 「何をしないべきか」を選びトレードオフを行う
  • 選択した戦略を補助するために事業活動同士の「フィット(調和)」を生み出す

ウラジミール・クヴェント博士は、戦略を「忠実に従うことで長期的な成功を確実なのもにする思想体系を、発見し、策定し、構築するための仕組み」と定義している[7]。

全社戦略(Corporate strategy)では、事業ポートフォリオの視点から「どの事業に参入するべきか?」という鍵となる問いに答える必要がある。事業戦略では、「我々はこの事業においてどのように競合と戦うべきか?」という鍵となる問いに答える必要がある[8]。経営理論や実践では、戦略経営(戦略管理、Strategic Manatement)と運営管理(Operational Management)は区別されている。運営管理は、企業の戦略の範囲内で効率化とコスト統制を行うことに主眼が置かれる。

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戦略経営の定義

前述したように戦略経営とは、経営資源と組織を取り巻く内的・外的環境の評価に基づいて、主要な目的に対する戦略策定戦略遂行を伴い、オーナーのために企業の経営者が行う取り組みである[1]。戦略とは「企業の基本的な長期目的を決定することであり、行動の方向性の採択であり、それらの目的を達成するために必要な経営資源の配分である」と定義されている[9]。戦略は、進むべき方向を定め、努力し、その組織を定義づけあるいは明確にし、その環境に呼応する一貫性または手引きをもたらす[10]。

戦略経営フレームワーク

戦略経営は、戦略立案戦略思考という概念を伴う。戦略立案は分析的な性質を持っており、戦略思考に使われる情報や分析を生み出すことを指している。また、戦略立案は、戦略が決定した後の遂行段階における統制構造でもある。言い換えると、戦略立案は戦略思考や戦略形成活動の周囲において起こるのである。

戦略経営は、戦略策定と戦略遂行という主要な2つの過程を伴い、この2つの過程はお互いに補完し合う関係にある。

戦略経営の歴史的な発展

戦略経営の起源

学問分野としての戦略経営は、1950年代や1960年代を起源とする。多数の初期の貢献者の中で、最も影響力が強いのは、ピーター・ドラッカー、フィリップ・セルズニック、アルフレッド・チャンドラー、イゴール・アンゾフ、ブルース・ヘンダーソンらである *2*。また「戦略」に関する初期の考えや文献から導かれる学問分野としては、数千年前までさかのぼることが出来る。1960年以前では、「戦略」という言葉は主に戦争や政治の分野で使用されるにとどまっていた[18]。多くの企業が発展のために戦略立案機能を持ち、戦略策定や戦略遂行の過程を進めるようになるのは1960年代に入ってからである[19]。

ピーター・ドラッカーは、50年に及ぶキャリアの中で、多くの功績を残した経営理論家であり、多くの経営学に関する書籍の著者としても知られている。ドラッカーは、1954年に出版した「現代の経営(The Practice of Management)」において、以下のような戦略に関する根本的な質問を投げかけている。

「我々の事業とは何なのか?」- これは経営者がまず最初に投げかけなければならない問いである。そして、それを注意深く考慮し、正しく答えることが出来るか確かめなければならない。

彼は、その問いに対する答えは、顧客によって決定されると述べている。彼は「市場での立ち位置」「革新性」「生産性」「物理的・財務的経営資源」「労働者の能力と姿勢」「収益性」「管理者の能力と育成」「社会的責任」の8つの分野において、目標が設定されるべきだと記した[20]。

1957年、フィリップ・セルズニックは「特有の高水準能力(Distinctive Competence)」という言葉を使って、どのように海軍が他の軍との差別化を試みたか説明している[2]。また、彼は組織の内部要因と外部環境の状況を一致させるための考えとして示した[21]。この考え方は、1963年にケネス・アンドリューズによって、事業環境における機会と脅威によって企業の強みと弱みを評価する手法(現在ではSWOT分析と呼ばれている)として一層の発展を遂げた[2]。

アルフレッド・チャンドラーは、戦略において経営活動の調和の重要性を説いた。機能別組織間での相互作用は、一般的に部署と部署との間を行き来する情報を管理職が中継している。チャンドラーは、将来を見るために、長期的な視点を持つ重要性を強調している。チャンドラーは、1962年に出版された著書「Strategy and Structure(戦略と構造、邦題:組織は戦略に従う)」の中で、長期的に調和の取れた戦略は、企業に組織構造、方向性、焦点を与えると示した。つまり「組織は戦略に従う」と簡潔に述べているのである。

戦略とは企業の基本的な長期的着点を決定することであり、行動の方向性の採択であり、それらの着点に到達するために必要な経営資源の配分である(アルフレッド・チャンドラー著書「組織は戦略に従う」より)

イゴール・アンゾフは、チャンドラーの研究成果の上に新たなコンセプトと語彙を組み立てた。彼は「市場浸透」「製品開発」「市場開発」「多角化」のそれぞれの戦略比較を、格子状の図(Grid)に発展させた(アンゾフの成長マトリクス)。彼は、経営はその格子の上で計画的に将来に備えることが出来ると考えた。1965年に出版された古典的著書「Corporate Strategy(企業戦略論 産業能率大学出版部 出版 1985年)」では、現実の状況と着点(ゴール)とのギャップを明確にし、「ギャップ低減活動」を発展させることを、「ギャップ分析」によって説いた[22]。アンゾフは戦略経営には以下の3つに分けることが出来ると記している[23]。

  • 戦略立案
  • 企業が計画を現実に変換する技術
  • 変化に対する内部抵抗を管理する技術

ブルース・ヘンダーソンはボストン・コンサルティング・グループの創立者であるが、1968年に経験曲線の概念を示した。経験曲線とは、累計生産量が倍になる度に、生産単位ごとのコストが20〜30%ほど減少するという仮説に基づいている。これは、高い市場占有率と規模の経済性を達成するという主張を補う考え方でもある[24]。

ポーターは、1980年に、企業はその事業領域と、ローコストまたは差別化を達成する競争優位性のタイプを選択しなければないと記した。これによって、低コスト大量生産などの経験曲線の考えから、特定の業界や顧客をターゲットに据えた差別化による戦略へと理論的枠組み(パラダイム)の変化が起こった。

さらにポーターは、過程の優れたパフォーマンスと競争優位性の基礎となる価値連鎖(バリュー・チェーン)の一部として企業が行う活動について記すことによって、1985年に再び戦略のパラダイムを書き換えた[25]。

脚注

  1. Nag, R.; Hambrick, D. C.; Chen, M.-J (2007). “What is strategic management, really? Inductive derivation of a consensus definition of the field” (PDF). Strategic Management Journal 28 (9): 935–955. doi:10.1002/smj.615. Retrieved October 22, 2012.
  2. Ghemawat, Pankaj (Spring 2002). “Competition and Business Strategy in Historical Perspective”. Business History Review (Harvard Business Review).
  3. Hill, Charles W.L., Gareth R. Jones, Strategic Management Theory: An Integrated Approach, Cengage Learning, 10th edition 2012
  4. (Lamb, 1984:ix)
  5. Lamb, Robert, Boyden Competitive strategic management, Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall, 1984
  6. Porter, Michael E. (1996). “What is Strategy?”. Harvard Business Review (November–December 1996).
  7. Kvint, Vladimir (2009). The Global Emerging Market: Strategic Management and Economics. Routeledge.
  8. Chaffee, E. “Three models of strategy”, Academy of Management Review, vol 10, no. 1, 1985.
  9. Chandler, Alfred Strategy and Structure: Chapters in the history of industrial enterprise, Doubleday, New York, 1962.
  10. Mintzberg, Henry (1987). “Why Organizations Need Strategy”. California Management Review (Fall 1987).
  11. Mintzberg, Henry and, Quinn, James Brian (1996). The Strategy Process:Concepts, Contexts, Cases. Prentice Hall. ISBN 978-0-13-234030-4.
  12. Drucker, Peter (1954). The Practice of Management. Harper & Row. ISBN 0-06-091316-9.
  13. Henderson, Bruce (January 1, 1981). “The Concept of Strategy”. Boston Consulting Group. Retrieved April 18, 2014.
  14. Mintzberg, Henry “Crafting Strategy”, Harvard Business Review, July/August 1987.
  15. Mintzberg, Henry and Quinn, J.B. The Strategy Process, Prentice-Hall, Harlow, 1988.
  16. Mintzberg, H. Ahlstrand, B. and Lampel, J. Strategy Safari : A Guided Tour Through the Wilds of Strategic Management, The Free Press, New York, 1998.
  17. Porter, Michael E. (1980). Competitive Strategy. Free Press. ISBN 0-684-84148-7.
  18. Kiechel, Walter (2010). The Lords of Strategy. Harvard Business Press. ISBN 978-1-59139-782-3.
  19. Henry Mintberg-The Fall and Rise of Strategic Planning-Harvard Business Review-January 1994
  20. Drucker, Peter The Practice of Management, Harper and Row, New York, 1954.
  21. Selznick, Philip Leadership in Administration: A Sociological Interpretation, Row, Peterson, Evanston Il. 1957.
  22. Ansoff, Igor Corporate Strategy McGraw Hill, New York, 1965.
  23. The Economist-Strategic Planning-March 2009
  24. Henderson, Bruce (1970). Perspectives on Experience. Boston Consulting Group. ISBN 0-684-84148-7.
  25. Porter, Michael E. (1985). Competitive Advantage. Free Press. ISBN 0-684-84146-0.

出典

上記コンテンツは古市大三による Wikipedia:en:Strategic management (7 Dec 2015, at 03:36 UTC) の翻訳記事です。GFDLおよびCC-BY-SA 3.0ライセンスの条項を満たす場合のみ利用可能です。



About 古市 大三

ダイゾーコンサルティング株式会社 代表取締役。日本経営士会認定 経営士、WACA認定 ウェブ解析士マスター、および経済産業省認定 応用情報技術者。7年の在米生活を経て、帰国後に起業。WEBデザイナー兼ディレクターを経て、WEBコンサルタントに転向。現在は戦略経営コンサルタントとして活動。その他、セミナー講師やウェブ解析士認定講座の講師も務める。