戦略遂行(Strategic Implementation)とは、企業が戦略計画の実行を管理する中で、その活動を指す用語である。

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戦略遂行の定義

「戦略遂行」について、万人が認めるような定義はなく、下記のような様々な定義が存在している。

  • 戦略計画を実行するために必要な活動や選択肢の総和(Wheelen and Hunger, 2004: 192)
  • ハッキリと明言された戦略計画の操作運用(Noble 1999: 119)
  • 戦略にGOサインを出し、実際に実行しようとする戦略的意志決定が生み出した全ての過程と結果(Miller et al., 2004: 203)
  • 大きく、複雑で、潜在的に手に負えないような戦略的課題を、小さく、複雑でなく、取り扱いやすい状態に因数分解する過程(Hrebiniak and Joyce, 1984: 90)
  • 望んでいる結果を目指した組織構造、重要人事行動、成果を統制するようにデザインされた仕組みを考慮した一連の介入(Hrebiniak and Joyce, 1984)
  • 戦略意図に基づいた組織的行動に沿った経営の関与(Floyd and Wooldridge, 1992)

戦略遂行の過程(プロセス)

戦略遂行の過程は、ほとんどが特定されておらず、数人の研究者が特定の活動と仕組みを示すのみである(例:Hrebiniak and Joyce, 1984; Reed and Buckley, 1988; Wheelen and Hunger, 1992)。

複数の研究者は、戦略遂行は下記の活動に基づくと提案している。

  • 戦略明言(Strategy articulation):達成すべき戦略目標に対する合意をとる
  • 戦略コミュニケーション(Strategy communication):利害関係者に関与し、人間としての行動や心理状態を考慮する
  • 戦略変換(Strategy transtation):戦略目標を、より明確で短期的な運用目標に落とし込む
  • 戦略監視と戦略統制(Strategy monitoring & controlling):進捗状況を監視し、戦略目標が達成できるように統制する
  • 戦略従事(Strategy engagement):管理職を戦略の達成に従事させ続ける

戦略遂行

 

戦略明言(Strategy articulation)

戦略を明言する意図は「戦略自体を、何を達成する必要があるのかについて管理職や利害関係者が合意できる状態に変換することである」とキーガンやデン・ハートグ(2004)の研究の一文で述べられている。戦略明言は、終着点(ゴール)にいつ到達が可能なのか、定量的・定性的着点として説明できるだろう(Reid, 1989)。例えば、戦略明言は、最終目的地の提示という形で表現される(Lawrie and Cobbold, 2004)。

これを達成するために、いくつかの必要条件を満たす必要がある。

  • 戦略、志(ビジョン)、使命(ミッション)が前提として存在している
  • 管理職は組織を改革する権限や能力を持ち合わせている。もしそうでない場合は、利害関係者からその権限を手に入れる必要がある

戦略コミュニケーション(Strategy communication)

戦略についてコミュニケーションを取ることは、戦略遂行においてきわめて重要である(Heide et al., 2002; Noble, 1999; Kotter, 1995; Reid, 1989; Hrebiniak and Joyce, 1984; Hambrick, 1981)。このコミュニケーションは内部的にも対外的にも起こりうる。加えて、戦略を遂行するとき、人間である側面も考慮する必要がある。そして、組織メンバーが関与する時のみにおいて、遂行が果たされるのである。

内部コミュニケーション

なぜ遂行責任に伴って組織メンバーが遂行に必要なのか、そして何をする必要があるのかコミュニケーションを行う。組織メンバーは企業の戦略着点(ゴール)を知っておかなければならない(Kotter and Schlesinger,1979)。戦略に対する認識が欠如している場合、組織メンバーは、文脈の境界とその重要性において戦略を遂行することができない。コミュニケーションが実現される方法の1つとしては、戦略をその組織に落とし込んでいく際に、短期的に達成すべきものとして、戦略的活動と戦略的結末がより小さな行動と運用着点(ゴール)としてそれぞれのチームごとに分割される。つまり、重要な運用上の結果と、急を要する変化を結びつけるのである。

外部コミュニケーション

しばしば、公共的な分野では、外部の利害関係者とのコミュニケーションもきわめて重要になる(Hambrick and Cannella,1989; and Nielsen, 1983)。

人間としての行動と心理状態

組織メンバーの従事において、人間としての行動と心理状態が影響する。

  • リーダーシップ:良いリーダーは、野心的な着点(ゴール)に対して、従う者達に志(ビジョン)による動機付けを行う(Huy, 1999)。
  • 実行責任と結果責任:明確な遂行における実行責任と管理職への裁量の付与は、戦略遂行におけるパフォーマンスに良い影響を与える(Allio, 2005)。管理職は、職務の実行責任や結果責任が明確で無い場合、協調メカニズムや戦略的・短期的な運用目標を生み出すことが出来ない。実行責任と結果責任を明確にすることは、戦略にとっての生命線である。戦略を履行するには、実行責任と結果責任が明確でなければならない。実行責任マトリクスや似たようなツールは、重要な履行タスクや活動とその責任者を明らかにするだろう。役割の明確化と重要なタスク、意志決定、結果における実行責任が存在しなければ、最良の状態で戦略を機能させることは困難である。
  • 動機:視覚的なパフォーマンスの向上や、小さな成功が戦略遂行にとって重要である(Kotter, 1995)。一般的に、低いゴールに向かうよりも高いゴールを掲げる方が良いとされている。しかしながら、組織メンバーが、そのゴールに到達することが不可能だと思った場合に、ゴールに向かうことをやめてしまうことがある。ゴール設定は、具体的で難しく、且つ組織メンバーに受け入れられるものが組織行動の研究において良いとされ、より良いタスク・パフォーマンスをもたらす(Erez and Kanfer, 1983)。

戦略変換(Strategy transtation)

戦略を使えるようにするためには、一連の実行可能な運用上のステップに変換される必要がある。しっかりとした明確な戦略目標は、運用上の遂行における下位目標に変換され(Reid, 1989)、事業部ごと個人ごとの着点(ゴール)に関連づけられ(Kaplan, 1995)、評価される(Reid, 1989)べきである。重要なのは「何を」そして「なぜ」それを行わなければなからないのか、人々に確実に理解してもらうことなのである。

言い換えると、事業戦略は、戦略を履行するために一連の明確な短期的運用目標(活動と結果)に変換されなければならない。戦略に対する重要な争点・要素・そして必要性が、目標・行動計画・「スコア表」に変換され、この変換が履行過程において不可欠できわめて重要になるのである。戦略を理論的に捉えてどのように組織的な計画として達成するかという一連の明確な目標を発展させることは、効果的な遂行過程の重要な観点である(Owen, 1982)。しっかりとした詳細で包括的な遂行計画を持つことは、遂行努力を成功に導くために良い影響をあたえる。加えて、経営資源・能力・時間において何が必要とされているのかを知る手助けにもなる。

また、戦略変換の一部として、組織メンバーに従事させるだけではなく、任された運用目標においてお互いに監視し統制し合うように、実行責任を与えるのである(Owen, 1982)。

戦略目標を達成するためには、短期的運用目標は評価可能である必要がある。パフォーマンスにおける状況の判断や戦略上の進捗の評価は、それらに対する評価基準や測定可能なパフォーマンス基準の存在無しには機能しない。進捗評価点または「マイルストーン」を確立しなければならないのである(Owen, 1982)。加えて、ゴール設定は、遂行努力においてその方向性と進む速度(ペース)を示すのである(Reid, 1989)。

戦略遂行の進む速度(ペース)は、それの成功に対して影響を与える。

  • ドゥーレイ(2000)は、非常に献身的な意志決定チームが、戦略遂行の速度(ペース)を落とす一方で、より効果的な遂行を導いていることを発見した。
  • 戦略遂行は徐々に増加する形で実行されるので、組織は一度にたくさんの変化を遂行することに圧倒されることはない(Leighton, 1996)。
  • 急進的な戦略遂行のペースは、組織において注意深く計画を立て実施するような時間を与えない、または組織メンバーがその遂行に対して参加と約束することに従事させないだろう。それに加えて、運用が中断され望んでいない結果を導くだろう。
  • 遂行の進む速度(ペース):小さな歩みを進めるようなゆっくりとした遂行は、遂行パフォーマンスに対して良い影響を与えることが多い。

戦略監視と戦略統制(Strategy monitoring & controlling)

間違った戦略によるマイナス面がコストや損害を与える前に切り離すためには、監視または評価を早期に取り組むべきである。

戦略変換の項で述べたとおり、それぞれの短期的運用目標は、マイルストーンを伴う計画、あるいは計量のいずれかによる評価基準がセットになっている必要がある(Owen, 1982)。ターゲットと結びついたこれらの少数の高度な基準は、戦略遂行として取り組んでいる活動やその結果を追跡することが出来るだろう。

これらの評価基準を監視することは、組織メンバーにとって、その戦略が成功に向かって遂行されている、あるいはもしそうでなければ戦略を達成することが出来るように意志決定を行うことについて手助けとなるだろう。次に、戦略統制は、組織パフォーマンスにおいて逐次有効なフィードバックを提供する事で、遂行努力の一部として変化や適応が当たり前のものになる。統制は、望まれているような着点(ゴール)に到達できないような場合に、実行に伴う要因を再考するのに役立つ。

戦略従事(Strategy engagement)

戦略を達成するには、組織が必要な行動が実行されることを確実にするために、合意された関与メカニズムに基づいて効果的・効率的に従事出来るよう管理を行い、それらの行動が期待されていたとおりに進んでいない場合、行動は必要とされる形に変化しなければならない(Amason, 1996)。戦略遂行における監視と統制における良い例としては、組織立った制限時間を設けた打合せを定期的に行うことである(Allio, 2005)。

前項で述べたとおり、小さなステップでゆっくりとした遂行を行うことは、より良い遂行パフォーマンスの中で経営的結果に従事すること対してプラスの影響を与える事が多い。

遂行の評価は、将来の遂行パフォーマンスにおいてプラスの影響を与え、過去の成功体験や教訓を活かした取り組みを増加させるのである。

出典

上記コンテンツは古市大三によるWikipedia:en:Strategic implementation (28 April 2015, at 22:37 UTC)の翻訳記事です。GFDLおよびCC-BY-SA 3.0ライセンスの条項を満たす場合のみ利用可能です。



About 古市 大三

ダイゾーコンサルティング株式会社 代表取締役。日本経営士会認定 経営士、WACA認定 ウェブ解析士マスター、および経済産業省認定 応用情報技術者。7年の在米生活を経て、帰国後に起業。WEBデザイナー兼ディレクターを経て、WEBコンサルタントに転向。現在は戦略経営コンサルタントとして活動。その他、セミナー講師やウェブ解析士認定講座の講師も務める。